ピアノフォルテ/小池房枝
自動ピアノは
ひとの手がなくても
自分で鳴れる
黒曜の黒鍵
白亜の白鍵
八十八音の音の鍵
自動ピアノは
ひとの手がなくても鳴れるけれど
弾かれたことがあるので
ひとの手を覚えている
右手指
左手指
二つの腕と肩
息遣い
ダンパー
自分で鳴っていると
思い出す
ひととき
ときおり
ひとが来ては
触れられて様々に歌ったこと
ピアノは打楽器だけど打楽器ではないので
弾かれたいし
奏でられたい
ときどきは人の手も懐かしい
だから必要もないのに
自分で鳴るときには
ふたを開いて
椅子も引いて
透明人間の一人二人も座らせてみて
ぽこぽこと
黒曜の黒鍵
白亜の白鍵
凹ませながら歌ってみていたりする
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