逃避における錯乱/Ohatu
 

 始めから、カップは空だったのだ。
 ゆらゆらと天井から吊らされた裸電球にまとわりつく湯気は
 確かにそこにあったけれど。
 暗い部屋、何度も叫び、黙る、その、錯乱。
 底なしに、女である。
 すべてを剥ぎ取ったあとの、つまらない、ただの女。
 膨らみと、窪み。穴と、器。

 随分と沈黙が続き、湯気が、湿った煙草の紫煙に化ける。
 暗い部屋の中、揺れる電球が時計に化ける。
 無口な時計、確かに動いているのだ。
 女は満たされる、ひとりだけ、ひとりきりで。
 繰り返す。完全に終わり、偶然に始まる。
 ただの肉、あるいは、美しい空白。
 液体。におい。声。息。音。憎しみ
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