時計/寒雪
 


急ぎ足でビルの谷間を行く
追い立てられる日常は
否応なくぼくの背後から
くたびれた背広の似合わないぼくを
気付かれないようにそっと押す
よろめきそうになりながら
目の端ににじんだ夕陽の棘
痛みにこぼした涙は
あの日立ち上る煙を見た時に
流したそれと似ているようで


ぼくときみはその日駅のホームで別れた
去り際に手を挙げて
じゃ、また
と微笑むきみの笑顔
ああ、また
と言葉を返すぼくを
笑みを消さないまま
振り返ってそのまま
ごったがえす乗客でいっぱいの雑踏の中に
やがて吸い込まれて消えていったきみ
その時
確かに心の奥底で
ぼくときみの時計
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