K氏の戦場にて/石川敬大
 
  猛々しい
  雲の峰々をぬってながれるその川に見覚えがあった
  なぜか
  その子に見覚えがあった
  林の奥の僻地の村へは行ったことないのに
  そのおさない者の笑顔に
  逢ったはずないのに
  白い三角錐のヒマヤラがみえる
  林のなかで
  かのじょを誘って
  これから
  ぼくら
  ジキジキするんだ
   ――そう、楽しそうに
  ひとなつっこい若者は
  二度と会うことのない笑顔でK氏に言ったのだ
       *
  まだ地雷がのこる
  ところどころぬかるんだ道の
  犬と遊ぶ
  子どもたちにまじって
  若者の妹である女の子には腕がなかった
  腕のない指先で
  みらいの
  なにかを
  つかもうとしていた笑顔で
  猛々しい村で
  K氏には
  そのことだけははっきりわかった
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