レモンの花が咲くところ/コーリャ
 
しまう。訝しんで彼の視線を追うと。芝生の上にレモンの実がひとつ転がっていた。なんだ。僕はおもわず笑って彼をかえりみたが。彼は無表情だった。僕は笑いを手早く隠す。彼をスポットライトで当てるように、水と陽光が手をとり合いながら降った。雪みたいだ、と僕はおもった。彼はそんな場所に凍っていった。もし彼が名前をもたなければ、僕は彼をどう呼びかければいい?君の名前は?花の名前は?国の名前は?そんなことばかり僕は考えた。おもむろに彼はカメラをあげる。ピントを震える指で丁寧にあわせて、シャッターを切った。

・すっかり雪の積もった芝生を彼は歩き始める。

そのたびに、ぼとり、ぼとりと肩から雪塊が落ちる。か
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