四月×日/岡村明子
お互いに歳をとったら
春の日の縁側で
あなたの膝枕で
眠るように死にたい
と言ったら
あなたは泣いた
六畳間の安いパイプベッドの上で
まだ社会にでることすら想像できなかった
若かったあの日
二人は老い先を思って泣いた
死んだときには
きっとキスしてと
約束したっけね
時間は飛び去っているのに
頭だけが寝ぼけていて
変わっていく日常が
ある一点にしがみつく私のこころを
かえって悲しませる
春のあたたかい陽射しだけが変わらない
ほかのものはみんな変わってしまった
あのときより少しだけ死に近づいた今でも
本当に死ぬときのことなんてわからない
あなたの誕生日にはいつも桜が満開だった
校門から続く盛大な桜のトンネルは私たちの誇りだった
今日あなたは誰かとその下を歩いているだろう
そんなことを想像しながら
縁側でまどろんでいる私の顔は
もしかしたらおばあちゃんのようだったかもしれない
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