失語症から/石川敬大
 
  蘇生のイキをするように
  そっと虚空に
  言葉をはなったとき
  言葉はすぐにちりぢりになってきえた
  あの日の
  あの青空には
  二度とであえはしない
  わかっているのに
  わかっていながら
  なんどもなんどでもでかけてゆこうとする
  なつかしさにであおうとして
       *
  いないはずのひとがいた
  すわっていた
  だまって
  あたたかい冬の縁側で日ざしを浴びて
  影が
  ほそくのびていた
  子どもらのわらい声がながれてきた
  だれかのくしゃみも
  いないはずのひとは
  やっぱりそこに
  いなかった
  朝のマクラがぬれていた
       *
  せつなさのイキは
  灰燼のぬくもりのなかにある
  と、だれかが言う
  彫琢されてきえずにのこる痛みが
  いまも疼くと
戻る 編 削 Point(22)