狩るが故/一 二
 
掟も
人の作ったものでしかない


人は無力である
山に立ち入った途端
自らを取り囲む自然に
容易に飲み込まれてしまう

何故ならば息を潜めて獣を追うとき
山に転がる小さな石になったような錯覚に陥る
己が自然の一部であるが故

何故ならば獣を追うとき
己もまた獣となり
己もまた、何かに追われているが故


自然は俺を臆病に
そして卑怯にしてしまう

俺は獣の目を
見つめることができない
命を殺めた責任を
受け止められないが故

俺は山の物音に
敏感になりすぎてしまった
獣と人を間違えては許されぬが故


あと暫くは
獣の絶命の叫びと
猟師の銃声が
山に谺(こだま)する…
射程は遠く…
音程は哀しく…
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