Deracine/HAL
帰る故郷を持たない
それは誰からも同情されないひとつの不幸
行き場を失った男は
街を彷徨い帰る場所を捜す
しかし もともとなかったものを
どうやって見つけるのか
それは判っているのに
歩く 曲がる 止まる 休む また歩く
すでに髪からは降り始めた雨が滴り落ちる
風は濡れた衣服を通して
まるで世間のように骨身に沁みてくる
駅の側を通れば帰省人が
たくさんの土産を詰めて旅行バッグを持って
線路の果てに確かにある故郷を見遣る
街はネオンサインで厚化粧をしながら
嘘で固めた笑顔で行き場のない男を迎える
しかし そこは淋しさの吹き溜まり
穴としか見えない
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