モノクロ映画/灰泥軽茶
 
古い映画館にひとりいる

流れている映画は古いモノクロ映画

なんて光と影が鮮やかな映画なんだろうか

生き生きとした豊かな情景

肉厚な人物たち

遠い国の心の襞(ひだ)が触れる感情的な言葉たち

そうして一秒一秒が飴細工のように伸ばされていき

劇中の流れに絡められていき

私自身の存在はうすく伸ばされていく

あぁなんだか眠くなってきたなあと

うつらうつらしていると

私は通りすがりのエキストラの役を終え

街燈がぼんやり薄暗く灯る

石畳の坂を下ってゆき

変わり映えのない下宿屋に戻り

硬いパンを齧りながらジャガイモの入ったスープを飲み

ラジオに耳を傾けながら

明日からはまたいつもの生活に戻るんだなぁと

椅子をななめに揺らしながら

窓の外に鮮やかに映えるモノクロの街並みを眺める




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