お面/砂木
 
そんな時 工芸店で 父母に似たお面を見つけた
男のお面と女のお面を買って
どうでもよさそうな夫には黙って
部屋に並べて飾った

そのお面に 父さん 母さん と呼びかけると
なんにも答えないから 安心して甘えられた
子供のように我儘に ただただ
父さん 母さん と呼ぶと 気持ちが明るくなった
娘の私の行き所を お面が引き受けてくれた
私が私として自立するには ごまかしが必要だった

夫に言ったなら多分 爆笑するだろう
嫁になった娘の気持ちを夫に言った所で
どうにもならないと思い 言っていない
ほー とか言うぐらいだろう 多分

本音と嘘は同じ 実物も虚像も同じ
位置確認をするための 幻に過ぎない

心が身体から流れていかないように
防波堤のように お面を乞う

力のない飾り物に 助けられる営みもある
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