きみの、ひとかけら/あ。
 
まつげの先にくっついているのは
きっと、全てからこぼれたひとかけら


布団からはみ出た指先の冷たさに驚く
そういえば昨夜見ていたニュース番組で
朝夕の冷え込みに注意しましょう
とか何とか言っていたような
言ってなかったような、忘れたけれど


パンを焼いてさくさく食べて
洗濯機が動き始める頃には
きみは目を覚ますだろう
わたしは精一杯手をあたためて
ちょっとかさついた頬に触れるだろう


世界は途方もなく広くてつかみきれなくて
目を見張ることはまだたくさんあって
きみはその小さな手に握られた鍵を使って
あちこちに散りばめられた扉を開いて
ひとつ、ひとつ
満たされていくんだ


そして、いつか知るだろう
世界は有限であることを
緩やかな壁に囲まれていることを


有限の美しさを、
囲われた美しさを、
美しさを、美しさを、


眠るきみのまつげにくっついているのは
そんな、世界のひとかけら
細胞ひとつまで冷える冬の朝に
結晶になったひとかけら
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