人さらいがやってくる/岡部淳太郎
 
年の瀬になると、人さらいがやってくる。寒くなって
きて、その年を振り返って、いろいろあった年を、あ
るいは何もなかった年を、何となく思い出している時
に、みんなが忙しくなって、着ぶくれした身体を持て
余して震えている、そんな時、人さらいが、人と人の
間に何食わぬ顔で入りこんできては微笑む。今年も、
そんな季節がやってきた。

走り回る。何のために、そうまでして、走り回るのか、
人よ。今日も冬の真っ暗なゆうべは、あなたたちから
視界を奪い、乾いた空気のために滲んで見える街の灯
りを、車の灯りや、人の心の灯りを、あるいは頭上の
星や月の灯りを、抒情的に見せているが、あなたたち
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