[:rip/プテラノドン
 
唇は共有できるといっても、
硝子越しじゃ なんともいえないな。
収監された僕に会いに来るなんて馬鹿げている。
別れたというのに、君は激しく口を動かす。
お守りの警官が表情を窺う。そいつを罵倒してもいいし、
後悔と一緒でそっとしておいてもいい。
どうせ僕は何も聞いちゃいない。今朝なんかは
ベランダで飼っている楊貴妃のことを考えていた。
でも昨日は、君の家に泊まりに行ったことを
思い出していた。ベッドから眺めていた、そよ風に揺れる
ペイズリーの柄のハンカチをそらで描いていた。
それが今や、船の帆と同じくらいの大きさ。
二人で包まって眠れたらどんなに楽しいことだろう。
一人でも寂しいとは思わない。僕はその感触を知っている。
癒されるものじゃない。消えない火傷の跡、
トンネルに反響する口笛に
素手のまんま触れようとしなければ。


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