月夜/佐藤章子
口内を游ぐかすかな黄色い声や
空で少しずつ拭った私のため息に
やわらかに触れた脈は戸惑い
口元をつつむ手のひらは笑って
夜の角で正装した蛙と
私の答えを探しにやってくる
一定に繰りかえされた呼吸の
終わりはいつまでも温かく
目隠しをした夜を残したまま
私の指先に降りつもる君のぬけがらを
いつまでも折りたたんで
細やかな藍色の中にしまい
君を包む五音の層に触れる寸前に
月はゆっくりと私の右側の
型どられた軌跡を食べはじめて
まぶたによく似た塔の入り口へ
私たちを一列に並べた
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