かに/岡村明子
かにを飾っているのよ
私は自分のことを露出狂みたいに
何でも話して同情を乞うのが嫌いなの
けどかにを飾っているところは見せてあげてもいいわ
流しの排水口から毎朝ね
かにがでてくるの
小さいでしょう
沢がにの仲間よ
食べるときみたいに
甲羅を一気にはがすの
しばらくしたら動かなくなるから
なかをきれいに洗って干すの
じゅうたんも、
壁も、
そのモナリザの絵だってそうよ
お庭も、
それ玉砂利じゃないのよ
ぜんぶかに
私のこどもたち
こんなことをお話していると
のどに綿がつまったみたいになってかないませんわ
世界に壁がございますでしょう
そのむこうへはどうやっても行けないんです
かにはそのむこうがわからやってくるって
信じておりますのよ
なぜって
ここに来たときは動いていたものも
ここに来ると動かなくなるんですもの
ですから何もお教えする必要がないんです
あなた、
おわかりになって?
あなたの場所は
そこ
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