あの日/寅午
あの日、かれらはこの線路のうえを
電車に乗って去っていった
あの日から線路は
瓦礫におおわれ、寸断したまま
川をわたった橋梁はながされ、レールは宙にういてねじ曲がり
枕木はあとかたもなくきえて
はしる電車の音はきこえない
草や木ばかりがよみがえり
あの日、たくさんの命をのせていった
電車はもう帰ってこない
「 遠いところへいったの?
わたしのそばで、こどもがきく
「 そうさ。すごく身近で
とってもとっても遠いところさ。
紙の表と裏のようにね。
「 きみのおかあさんは
いまもきみのちかくにいるんだよ。
もう会えることはできないんだけれど、
感じることはできるんだ。
わたしたちは すっかり葉をおとした
木立のあいだを帰っていった
凍てつく冬のなかの
ちいさな陽だまりにぬくもる心をたずさえて
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