終りの季節/DNA
 
。この男の、ある種のマッチョさ。それも豪放磊落といったそれではなく、機転がある程度利くうえでの、マッチョな態度は鼻につく部分もある。しかし、仮にこの主人公になんら共感できる言動や思考のあり方がなかったとしても、ひとつの終りの季節をこのような形で結晶化している点は、やはり面白いと感じるし、何処か身に詰まされる。キャラクターや舞台設定の古風さを超えて、個的な「一季節」が描き出されているから。

鼻水が止まらず、また咳も酷い。
わたしは、今月で29歳になった。特に感慨はない。
詩情の季節などとっくに終っている。
しかし、終りの季節をこの小説の主人公のようには迎えないだろうという予感はある。

やはり、幾らある種のリアルが描かれているとはいえ、フィクションはフィクションだからだ。そこにフィクションの魅力もあり、弱さもある。わたしの人生にはもはや、ドラマなど現れるべくもないし、風邪をひいたり、それでも飯を作ったりしながら、その日その日を淡々とやり過ごしていくだけである。
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