そのこ/ ひより
 
けど そのこは 言えなかった。


小学校、春の遠足の日。誰も持っていない買い物籠を下げて出掛けた。
母は、一番お気に入りの買い物籠に自分の持っている一番大切にしている大判のチーフを添えてくれたので、そのこは、誰よりも幸せな気分で出掛けた。


田舎の娘は 時代を知らない
誰よりも 愛されて
誰よりも 幸せな気持ち

みんなに知ってもらいたかった

華やかな友達のお弁当
おにぎりと卵焼きの私のお弁当

お塩が効いていて苦かったっけ・・ ・

砂浜の砂へ潜っていく素足

あたたかかった

お家へ帰って
涙の跡が残ったまま眠っていた顔の前に
もう一つの顔があった
寝言にならない寝言を言ってみようとした のに
目を覚ましてしまった

まだ

電気は点いていなかった



いつも自由な羽根を持っているように見えた 友達が とても羨ましかった

あのころ
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