命脈/salco
 
1月 梵天(ブラフマー)は金剛乗に還る
すると涸れ沢の畔に半裸を露わし
年若の尼が五弦の琵琶に弦を張る
きつうきつうに張るのだから
絹の撚が奏でるほどに
押えの指の血に染まる
2月 霊峰の雪煙が伽藍にたなびく
山襞が新珠の満月に照らされたのち
前世記憶を持つ児が生まれるであろう
遥かローツェの頂を望む谷合
その男児こそはラサの宮へのぼられる身
観世音菩薩(アヴァローキテーシュヴァラ)が化身 ダライ・ラマの転生
3月 密命を帯び僧達が雪渓を渡る
峰を越え、烈風の尾根をひた走る
尊父母はまだ夜に怯え風に慄きはしない
「恐れるでない」赤児の澄んだ目がもう語る

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