泥と口紅/飯沼ふるい
 
深い井戸で口を開く女の陰部
押し広げられた涯の口紅
それを覗いてしまった僕の背中に戦慄した芋虫が這う

民話の語り口から滴る古い童心を奪われ
錆びた鋸が林立する平野は黙って火を食み続ける
その火に揉まれた井戸の焦点から
つんぼの夕陽が朽ちていく

年寄りの男の額に刻まれた渓谷のような皺の断崖に樫の樹の根が食い込む
分厚い手のひらが煮え立つ物語を包み込む
その柔らかい愛撫によって彼の物語は井戸から掬われる
何処に行く宛もない舌先の震えのために語ることを求めては
頸椎の芯に住む鈍い蜂に沈黙を注がれる
世を綴じる糸となるのは病と諭された沈黙の人が引っ掻き残した傷痕
語られな
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