ふるさとの点景/木原東子
 
してしまった天井をつけることもなく
屋根一つのボロ屋住まい

未婚の美しい叔母たちが歌を口ずさみながら
洋服を縫っていた
没落の地主の一家

Yはにわとりを抱っこして
子犬をおんぶして遊んだ
竹細工の包丁を祖父が作ってくれた


20年の時は過ぎ
娘たちは嫁に出し、祖父は半身不随となる

最期に会いにいったとき
Yの心は離別を知っていた
溢れる涙を何とか隠す
「どうした、泣いたような顔じゃっど」
Yは必死で微笑もうとした

祖母も逝き、家は山崩れで崩壊した
その時近所に二人の犠牲者すらでた

土地は売られ
墓は他県に移された
また30年の時が流れ、
そこに住んでいたYの叔父も亡くなった

Yの母親にとって、そこは今も光り溢れる泉
Yにとってもふるさとはそこ
それが母子を繋いでいるかのようだ

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