ふるさとの点景/木原東子
 

Yの祖父は最初Yの男親であった
強く頑固で笑わず坊主頭の大男

金色に光る錦江湾と
七色の完璧な稜線を持つ桜島を
並んで眺めた
たった一冊の絵本を読んでくれた
少しでも間違って読むと
幼いYがそれを注意した
祖父は笑った、嬉しそうに

水瓜は深い井戸で冷やす

平たい敷石で夏は行水をした

いちごは小山にのぼりつつちぎって食べる

へびいちごの美しい墓の石段

陶器のおおがめに咲くホテイ草の淡い花

大八車に乗せられて登る丘の上
サツマイモの畑で生を齧ってみた

小笹とお茶の生垣沿いに
小径を走る
空襲の時、焼夷弾が落ちるからと
はずして
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