はじかれたけれども/木原東子
1
Yの充たされた世界の中に
「赤ちゃん」というものが登場した
期待するように長くトレーニングされていた
?印のものを待つ日々
ぷるぷるの柔らかな
泣いたり笑ったりするオトート
その子が動くたびに喋るたびに
Yは失望した
誰もYを見ていなかった
みんなが、特にYの父親がYへの笑みを忘れて
オトートに夢中になった
Yを中心とした輪は消えた
別の輪からYははずれ、立ち尽くした
〜彦が憎かったり嫌いだったりするのではない
はじかれたことの実感は
後年夢の中で現れた
Yは夢の中で傷ついた自分を知った
2
Yの弟が人並みに
あるいは人以上に人生の中で
苦しんだに違いないことを
Yは自らの痛みのように悲しく感じる
同じ血、同じ肉
〜彦がひとり生から立ち去った今
Yの使うパスワードのひとつが
使うたびにYを泣かす
アルファベッとの並びに彼の会社の名前が
透けて見えるから
大切なものすべてを置いていく彼の淋しさが
文字から沸き上がる
とぼとぼと去っていく姿が見える
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