メシア/ゆべし
その肌は月色に 氷のように透き通る
清く冷たく滑らかな白
その瞳は鯨色に 炎のように揺らめく
不思議を隠した群青色
少年は無造作にこちらに近寄り
「君のことならなんでも知ってるよ」
赤い唇は生き物のように生々しく
「君はお前が思うより、ずっともっと退屈な人間だ」
耳触りだけなら愛がある
赤い唇が弧を描く
毒々しい三日月
私は気付く
その言葉を待っていたのだと
青い夜
赤い三日月
暗い道
月影
夜風
木々のざわめき
彼を非難し、私を案じ、責める
青い夜
赤い三日月
獣道
し。
静かに。
彼の足音が消えてしまう
私はよたよたと進む
しばらく動かさなかったうちに随分と身体が鈍ったものだ
不意に浴びた赤い月光に皺ばんだ手の甲を知る
赤い三日月
青い夜
少年は暗い森に消え
赤い三日月
青い夜
血の香り 獣の唸り声
赤い三日月
青い夜
陳腐な不幸は食い散らかされ
赤い三日月
青い夜
メシアに遭えた幸運を祝う
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