他人/葉leaf
 
が、そのとき私は田淵さんで、田淵さんは私の服を勝手に着たことを申し訳なく思い脱いだのだが、脱いだとき田淵さんは私だった。私は再び服を着た。
 初めて会う人が私の左側に入ってきた。その人は私の左手で私の右手と握手して、はじめまして、近藤です、と私の口でしゃべった。私は左脳によって近藤さんの秘密を知ってしまった。どうやら浮気をしているらしい。今度は別の知らない人が私の右側に入ってきて、近藤さんと親密な話を始めた。どうやら近藤さんの浮気相手らしい。二人は右脳と左脳の間で親密な情報交換を続けた。
 殺人者が私の中に入ってきたとき、私は危うく殺されかけた。殺人者が私の手でナイフを持ち私の心臓を刺そうとしたとき、殺人者はそれが同時に自分も殺すことになってしまうことに気づいて、刺すのを取りやめた。すると殺人者は徐々に田淵さんに変わっていき、田淵さんは自分のしようとしていたことの重大さに気づき、罪の意識から自殺しようとしてナイフを胸に向けたが、そのとき田淵さんは私だった。私はナイフを戸棚の中にしまい、ひとまずタバコを一服ふかした。


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