大きすぎる朝/
 
HBの鉛筆が発する甘い匂いに誘われて
細い線が集まり大きな夜を作り始める

ラッピングされた携帯電話から漏れ出しているのは
長い長い休み時間の喧騒
大人と子供と
そのどちらでもない者の声が聞こえる

記憶のような濃度の室内で
黒板は真っ白に塗りつぶされていた
途方にくれながらも
気丈に黒のチョークを探す教師達の影
それがなんだか笑えて仕方ない

からかうように次々と手が挙がる気配に
答えを知りながら俯いたままの「あの頃」
机の中に隠した言葉が
徐々に腐り始めているのに
気づかないふりをしている


やがて夜がほどけ始め
黙ったままの窓をすり抜けるようにして
無味乾燥な光が集まり小さな部屋を照らし始めた

遠くで着信音が鳴り響く
誰も出ない
出ることができない
着信音
鳴り続ける
誰か 
誰か
誰も
出ない


大きすぎる朝は
既に出来上がっている



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