ちょっとした疑問/salco
ことにしよう
クライマー
マロリーの遺体は
1920年代のウールセーターという最新装備のまま
チョモランマの北壁でうつ伏せに倒れている
フリーズドライし紫外線に露出した背中は石灰色で
川床石のハリボテように保存されてある
顔も恐らくエルメのマカロンみたいなのだろう
セスナもヘリも寄せ付けない、
そこは海抜8千メートルの海溝みたいなものだ
地上に収容されぬ完全遺体とは、一体何の記念碑なのか
彼の挫折をしか表わさないというのに
けだし文学とは不思議な保存機関だ
「そこに山があるから」
この言葉だけが残り、万人に生き続け
当人が山岳史に刻む、肝心の実
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