三本目/根岸 薫
しは
「福岡へ行ってみたかったから」
Tはほほえみ
「お前は福岡へは行っていないよ。
あれは東京だ」
たぶん
この瞬間に、
わたしの
八本目の
指は
切断されている。
記憶はここで途切れている。
七はない
七はない
Tは順番を間違えている。
数えるまなこが巡ってしまっている。
三本目の反対側に
まだ見えている
七はない
八本だと思う。
浮かぶのは肉だけである
三鷹の駅が沖の波に揺れている
Tの脚はわからない
みなとなどもう無いのだ
六本目が微かに見えている。
浮かぶのは肉だけで
Tは沈みあがることをしない
ここで途切れている。
無い七も
ふくめて 八本
海水を掴む
またTがいる
順番を間違えている
福岡はその日
雨であった
花になると思う。
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