りんご/寒雪
水あかの目立つ
くたびれた流し台に立って
不器用に皮をむいたりんごの
やけにざらざらで
ぼくの手でさらけ出された
瑞々しい果肉の表面を目の当たりにして
なんだかぼくの心のどこかに
いろんなものに隠れて見えなくなったと
思い込んでいた心のひだの在り処を
思い出させてくれて
一人はにかんでりんごの真ん中に
包丁を突き立てて真っ二つに割る
おいしくいただいたりんごの
食べ残しが少しずつ茶色くなって
あの瑞々しかったりんご色が
陵辱されていく様を
意味もなく見続けている
やっぱり塩水につけておかないと
だめだったんだな
昔母親に教わった知恵が
ここぞとばかりに心の中を駆け巡る
夕方5時を知らせる自治区のチャイム
予期せぬ大きさにぼくは驚いて
それから今更だと思いながらも
残ったりんごを塩水につけて
冷蔵庫の目に付く場所にわざと置いて
音がしないようそおっとドアを閉めた
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