希望と栄光の工場/佐野権太
 
その工場には
淀むことのなく
エルガーの旋律が流れる
木管を低く震わせる安定した音色
勇壮な大河に抱かれる

誰彼の何気ない表現は
神々しい余韻を含み
小さなアイデアは
淡い発明の光を帯びる

工場の敷地の中では
すべての者が勝者であり
誇り高き英雄として讃えられる

用具の片づけを終え
家路につく清掃夫
逆光の背中から零れる
西陽は
成し遂げた喜びと
感謝に満ちている
薄い膜を広げたような
雲の彩りが
明日へ続いている





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