記憶/菜穂
 
いつの日にか 同じ道を歩いていた
あの頃と変わらぬ
人々の群れ
忙しく動くバス
排気ガスだらけのビルの谷間

いつか私が落とした心は
残っているのだろうか?

薄汚れた歩道橋の階段は
あの時のまま汚れきっていて
踏みしめる私の足元から
様々な記憶が立ち上がる

一段一段に残る
人々の想い
沢山のドラマ

生ぬるいビル風は
時代を超えて 視界を歪ませた

自分だけ取り残されたような
空虚な気持は
人ごみの中だからこそ
生まれてきた

人の視界から逃れた
壁の隅が
自分には一番お似合いの場所

そうしてやっと
ため息がつける気がしていた

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