穏やかな拷問/ゆべし
 

安っぽいラベンダー色の入浴剤
狭いアルミの浴槽
掃除が行き届いていないのか少し曇っている
格子状に並んだブルーのタイルの壁
黒ずんだ溝
オシャレなバスタイムなんて縁がないわ
排水溝に髪の毛がとぐろを巻いている
うっすらと緑色の黴が広がった天井から水滴が垂れて肩を叩いた
冷たい
浴槽の底に溜まっているのは溶け残った入浴剤か、それとも垢か
尻の下がざらつく
紫のお湯は半透明で、ぶよぶよとした体は隠れない
太い腿の間に縮れた黒い毛が見える
水面に映る紫色の顔の上を、死んだ虫が通り過ぎていく
蛇口の栓は馬鹿になっていて、いつもしまりなく水を垂らしている
ぽたり、ぽたり
ぽたり、ぽたりと老人のキレの悪い尿のように
波紋は生じるたびに虫の行き先を弄んだ
いつまでここでこうしていればいいんだろう
100数えてから出るのよと、曇りガラスの向こうでママの声がした
いーち、にーい、…
40以降は無意識が放棄した

戻る   Point(2)