11月ふたりのボートが、宝ヶ池をなぞってゆく日/野中奈都
 
だのなかにうまってしまったんだ、って
それでだいじなしんけいを
あっぱく、しているんだって、
ごめんね
わたしたちもう
おなじ、にはなれないね
ごめんね

 *

って、
かのじょはかなしそうな顔で言った
わたしは泣きそうになって
わずか、足元に視線をおとし、また
かのじょの方をみると、もう
へらへらとわらっていて、もう
ぜんぶでたらめになっていて
だけど
次かなしくなったら
そのときは
ふたりでちゃんと、
泣きたい

 *

ポケットにいれていた黄金糖を
かのじょの口にいれてやる
ふふ、とわらって
ころころと舌で転がすおとがする
ことしはじめての雪が降る
だれも乗せていないボートが
凪いだ池をしずかに
すすみはじめ



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