八重桜を真理だと仮定して/N.K.
 
朝 いつも降りる駅の
一つ前の駅で 
朝急ぐ人たちばかりで
ロータリーの八重桜は 
ほとんど返り見られることがない

駅の跨線橋を
見上げながら歩いてくる顔は
八重桜を背にしながら
これから始まる一日に狙いを定めている

4月の下旬ならちょうど咲き始めたつつじを見る顔だ

この駅のロータリーでは
八重桜の木がひっそりと
乗客たちを見つめ立っている 
6時45分過ぎの
この駅で急行待ちをする
朝の準急やら普通列車は
中に青白い周回遅れの顔をした乗客がいて
一日の始まりを上目づかいで窺う

八重桜が真理を表すとしたら
人はなぜ背筋を伸ばして八重桜に背を向け
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