案山子になりたくて/灰泥軽茶
 
遠くの向こうから眺めていたら
誰かと思って近寄ったら
案山子だった

今にも動きそうな気配を漂わせているのは

こがねいろした稲穂が風で波打っているからだろうか
生命に溢れた大地に自分だけ命を授かっていないからだろうか

あちらこちらに
ぽつんぽつんと
可笑しな顔して立っている

街を歩いていると
案山子があちらこちらに
ぽつんぽつんと立っている

塾帰りの小学生であったり
女子高生であったり
ジャンクフードで満たされたお腹をさする会社員の男であったり
夜の装いをした髪の綺麗なお姉さんであったり
腰の曲がったお爺さんであったりした
人々が刹那に
この世界の一部でありたいと願ったとき

一応に皆
瞳孔は収縮し
体は藁のように柔らかくなっていき
片足はもげ
人の流れを人の営みを
円滑に支えているように守るように
大きく手を広げ立ちつくす

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