とばり/凪 ちひろ
光がなければ 色がない
置き忘れられた自転車も
錆びついたレールも
高いビルも 小さな家も
道も 人も 河も
境界線はあいまいになって
等しく
やさしい黒に抱かれる
しづかな しづかな晩
月明かりさえない暗闇で
わたしも あなたも
ただ黒く
ひとつの影になりすます
恋い焦がれるは
海の青さ
檸檬の黄色
玉虫のエメラルド
薄赤い唇
夜に抱かれて青年は
少女の肌に触れる幻想を抱き
その度 自身を嘲り笑う
夜は青年を包み込み
明日へ続く カラフルなエネルギーを凝縮した液体を
その寂しげな口に注ぎ込む
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