疲労薬/「Y」
 
んです。わたし。」
 そのあとの彼女とのやり取りの内容を、私はもう憶えていない。いま私の中に残っているのは、彼女の妖しげな微笑みだけだ。
 あれから私はさまざまな職を転々とし、今は小さなリサイクルショップの雇われ店長をやっている。
 私は思う。疲労薬は、都心で地上げ屋が暗躍し、にわか成金たちが繁華街にカネをばら撒いていたあの時代の、徒花みたいなものだったのではないかと。
 今はあの頃に比べて、疲れている人が増えたように思う。疲労薬だなどと言ったところで、振り向く人がいるとは思えない。
 虎月堂はいまから十一年前に、店主の高木が急死したことを受けて消滅している。
 風の噂によると、高木の死因は「過労死」だったという。
 もしかしたら、あの女が高木に疲労薬を飲ませすぎたのが原因であったのかもしれない。
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