一本の樹/オイタル
はその後ろに
もうひとつの森と
もうひとつの森を持つ
森の中で虫は生まれ
森の高笑いに虫は身を隠し
鳥は息をひそめ
獣は足音を忍ばせる
虫と鳥と獣が眼を見張るその背後に
もうひとつの森が顔を表す
そしてもうひとつの森と
もうひとつの山と
もうひとつの峰と
山は森を押しのけ
空は山にかぶさり
樹々は深々と山を掻い込み
空の裂け目から次々と
森を吐き出し
森は空を噴き上げ
吹きあがる空の影を
一本の樹の枝が受け止める
樹の枝に森が掛かる
樹の枝に山が止まる
樹の枝に空が映る
一本の樹の枝に
なろうとするぼくの
家の裏に立つ一本の樹の枝に
なろうとする一本の
樹の枝に残る
薄い傷跡のその後ろの
皮を剥がれた
もう一本の樹の枝に
肥った百億の空が
くすりと
笑う
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