名前/砂木
 
どうして私が名前を変えなくちゃいけないの

結婚に向けて大人にならねばと思いつつ
決まりきった事 承知した事 そうしたい事
であるにもかかわらず

持って生まれた姓を 旦那の姓に変える
それを目前にして
私は無償に怒ってきた
怒りは旦那に向けられた

結婚で変わる事に
それほどこだわりはなかったはずだったのに
自分が吸い付いて生きている支えから
ひっぺがされて苦しい 悲しい

なんでなの どうしてなの
と 繰り返し言うのを
困った顔でずっときいていた彼は
困りっぱなしだったので
しだいに私も 言うのをあきらめて

中学の授業中に 自分でつけた筆名だけは
私のものだ
誰に命令されても誰に剥ぎとられても
私が私につけた名前だけは 一生

真の名は 結婚と共に消え 今は
新姓にもなじんで生きているけれど

旧姓より新姓より つきあいが長い
砂木 と呼ぶ 名前



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