水の間(あわい)/ゆべし
特殊な水で満たされたその保育器は柩でもある。
「抜け出るのなんて夢のまた夢」
隣の保育器=柩から、会話の続きのように声がかけられた。空気を震わす音でなく、脳髄に直接響く信号として。
「夢と現(うつつ)はひとつづき。繋がっているんだよ」
声が脳ににじむ。その言葉がまるでぼくの思考であるかのように。
――メビウスの輪ってあるでしょう。
ちょうどあんな具合なのよ。表と思ったら裏で、いつのまにかまた表。
だから眠っても無駄なのさ。逃げられやしないんだ。
彼―肝心なところが見えないので性別は分からないけれど―の白く柔らかな髪の毛が、藻のように水に揺らいでいる。
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