近所での小さな争い/殿岡秀秋
もしれない。男が借りている場所は敷地の奥で、駐車場の出入り口にあるぼくの家の塀の前ではない。この塀は我が家のものだと返すしかない。
それからどうなるか。展開を想像しているだけで、締まらない水道の蛇口から水滴が滴るように暗い気分がこころに溜っていく。
どうせやらなければならないなら、はやくすませてしまおう。
男はなかなか帰ってこない。とうとう夜になった。彼が酔っ払って帰ってきたら、気が大きくなっていて、面倒なことになるかもしれない。今夜は怒鳴ることは止めよう。
ひとりになっても、いつものように文章を書く気がおきない。仕方なく読みかけの本をひらく。そこには、
「なるべく喧嘩しないで平穏にくら
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