ほんとのぼく/凪 ちひろ
 
ほんとの自分を探したって
ぼくらは液体だ

この人の前では四角くて
あの人の前ではまん丸い

あいつの前では黄色くて
あなたの前では水色だ


どれがほんとでどれがうそか
考えたって
ぼくら 
誰かの前でしか 固体になれないみたい


だからひとりぼっちの夜が怖いんだ
気体になって 蒸発してしまいそうなのを
必死で堪えて 眠りにつく




ほんとの自分を探したって
ぼくらは歳を取る

十代のときは四角くて
米寿になったらまん丸い

子どもの前では黄色くて
同窓会では水色だ


どれがほんとでどれがうそか
考えたって
ぼくら
たった一人では 生きることすらできないみたい


だから思い出を集めていくんだ
どん底に落ちても ひとりじゃないって
思い直して また立ち上がる
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