BARにて/凪 ちひろ
 
僕が歌えなくなったら 代わりに歌ってくれる?
「ばかね。それじゃ意味ないじゃない。」
ウィスキー カランコロン鳴らして 君は笑った
小さなBAR 僕はJAZZ SINGER
だけど時々思う
君の方が 僕より上手い

ある雨の日 僕は風邪をひいたフリをした
パントマイム パントマイム 声がでませ〜ん
困るオーナー 頭抱えるピアニスト
ため息ついた君は カクテルドレスの裾引いて
いざ輝ける舞台へ

ほらね やっぱり君の方が上手い
僕は客席の後ろで 小さな空咳を一つ

一曲歌った君が こっちに向かって歩いてきた
驚く僕に マイクつきだして
「歌いなさい。」
パントマイム パントマ・・
「下手な芝居はやめて。」
ピシャッと言われ 仕方なく前へ
こうなりゃヤケだ
JAZZ SINGER 俺は JAZZ SINGER

交差するカラフルなライト
客の口笛と歓声
最後はお決まりの拍手


閉店後 僕に待っていたのは
とびきりの美女のキス
「あなたにしかできないことがあるのよ。」
そう言った彼女の笑顔は まるで少女みたいだった
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