すべからずの谷/
灰泥軽茶
歩道と車道の間にある細長い縁石を
すべからずの谷と呼ぶ男がいる。
「周りに高い建物があればある程、俺は燃えるんだ。」
「この高揚感をあなたにも感じさせてあげたい。」
と道行く人に手を差し伸べている。
ある日、その男はすべからずの谷を自転車に乗って漕いでおり
ふわふわ浮いているようだった。
信号機が青になって皆が歩き始めた後ろから
その男はふわふわ浮いたまま
舟渡しのようにゆっくり漕いで渡り
またすべからずの谷に着地し遠くへ消えていった。
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