ウミガラス/シリ・カゲル
今年になってやっと
我が家の底冷えのする土間に
ウミガラスが営巣した
すでに蓄えは底をついた
ぎりぎりのタイミング
かつては家族全員
障害者認定だったから
近所の一部マスコミからは
生活保護長者、だなんて
揶揄されたりしたものだったが
いまはただ、家族揃って
四方を障子に囲まれた部屋で
熱々のおでんを唇につける遊びをする
部屋の外からは、ただ
空気を濡らす羽繕いの音
ウミガラスのために子供たちが用意した
三和土のかき氷は
一度も嘴づけられることなく、溶けて
甘くて赤いだけのただの死海と化す
窓の外の隣家の緑のカーテン
ゴーヤーの実が熟れすぎてほぼ黄色いウミウシ
羽繕いが終わると
ウミガラスは今夜も土間土間でアルバイトをする
しばしば、
店長や同僚の目を盗んでは
おでんの種をちょろまかす
戻る 編 削 Point(3)