/鯉
さい手でカップ麺を持って湯を注ぐ。またカラスの鳴き声がした。足音が夜をほほろがせる。畳の汚れるのも構わずに置いて、ただ秒針の過ぎるのを待って、三分と経たないうちに開けた。犇いていた。感触もよくわからないままに掻き込んだ。少しだけ腹の底が暖まる、均衡を保つようにグラスに手を伸ばしてから、その中に漂う麦茶、あるいは麦、ではなく、ただ単純に泡が、こちらを見ているような気がした。豆電球だけ付いた室内では、到底浮かぶものも見えないだろうに、どうしたものかと彼はいぶかしんで、いぶかしんでいながらも、飲み干した。喉を伝うのは液体だけではないのが、よけいに不快さを際立たせる。寝てしまおう、と、彼は思った、豆電球を消してしまおうと、だがどうにも踏ん切りが付かなかった。部屋の隅でゴキブリが蠢くのがわかる、いや、そんなことはもはやどうでもよかった、目を離した瞬間に容器に入った残りの麦茶の目玉がおれを見やしないかと、それだけが気にかかった。揺れる頭でもってグラスを見つめた、残った泡がいやになまめかしく、黄色くなった壁を映している。
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