キチガイの楽園/はだいろ
高級自転車の兄ちゃんが、
すれちがいざまにぶつかったらしく、
腕をおおげさに抑えこんだ兄ちゃんが、
腕のロレックスをおじさんに見せつけて、
「・・・これだ、10万円じゃすまない・・・」
みたいなことを言って、
おじさんは真っ青になっていた。
世の中、キチガイばかりだと思った。
それくらいしか、話すことがないから、
彼女の手をにぎって、
そんな話をした。
平凡なところまで、話のレベルを落とすのが、
なかなか技術がいる。
ぼくだって、十分にキチガイだな。
彼女のほほをなでて、
だいじょうぶ、きっと、もうちょっとだからさ、
とほんとうらしく微笑んでみた。
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