十月の童話/salco
決めて来て
本当に憶えていないのでした
盆が過ぎ暮れになっても音沙汰はなく
親も知らぬ落命の日には
目にもすがしい新館が落成間近でした
もう何年も何年も前のこと
そばかすだらけの猫っ毛の司書は
殴打の痣も首絞め痕もなく
強姦の恐怖も屈辱もなく
胸に蔵した幾千の物語から物語へ旅しつつ
同じく眠れる幾万の本を蔵する書架の間を
細長い脚で行きつ戻りつ
世にも繊細な手で背表紙に触れ
ありもしない幸と
ありもしない時を漂い
いもしない自分について気付きもしません
だんまりの本らが蔵すは時の滴
神田川の源流もナイルであります
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