十月の童話/salco
 
 夜の図書館

しじまに俯く図書館の内省では
神田川の源流もナイルであります
不心得者の高校生が夕方
不品行に忍び笑いを殺していた
地下の障害者用トイレも森閑と
そばかすだらけの司書の死は
とうに基礎に沁み込んでいて
今夜も思いだけが立ち上ります

マルファンの美しい四肢を持ち
心臓に障りもあった赤毛の少女は
皆と走れず本を友とし
平たい胸に幾万の言葉を蔵していながら
揶揄を恐れて小声でしか話さぬ
やや猫背で猫っ毛の女になり
静かな静かな眠たい場所で
静かに静かに生きていられる
そんな仕事に就きました

目を会わせたがらぬ
目立たぬ女はそれでも伏し目に
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